大分合同新聞 私の紙面批評「被害者支援の情報厚く」

被害者支援の情報厚く

 本紙は9月15日付朝刊で、広瀬勝貞知事が、犯罪被害に遭った人たちを支援するための県条例案を次期定例県議会に提出し、年内の制定を目指す考えを明らかにしたことを報じた。

 犯罪被害者は、犯罪行為による直接的な被害以外にも、さまざまな被害・問題に直面している。再び平穏な生活を取り戻すためには、被害を受けた直後から医療、経済、生活など多面的で継続的な支援が必要で、地方自治体による支援が不可欠である。しかし、犯罪被害者が直面する問題は、社会において十分に理解されているとは言えないのが実情だ。

 そのような中、本紙は犯罪被害者への支援に資する情報を継続的に提供している。8月10日付の朝刊では、犯罪被害者や遺族の経済的な被害回復の状況を知るため、県弁護士会が行った実態調査を大きく報道した。その中で、加害者側からの賠償金の支払い状況について、ゼロのケースが25%に上るなど、具体的に数字を示して紹介。殺人など重大な犯罪ほど十分な支払いを受けておらず、加害者の資力によって賠償額に差が生じている問題を的確に伝えていた。

 また9月15日付朝刊は、県弁護士会が大分市で開いたシンポジウムの報告や議論を基に、民事訴訟の判決が確定しても加害者が被害者に賠償金を支払わないケースが多いことを指摘。さらに、何の落ち度もない性被害者が、職場の無理解から退職に追い込まれたという二次被害などにも触れ、犯罪被害者が直面する問題を分かりやすく報じた。

 弁護士白書(2015年版)によると、犯罪被害者の支援に特化した条例を制定している自治体は全国的にみて、極めて少ない状況だ。一方で、対象を広げて国外の犯罪に対しても見舞金を支給することを定めていたり、立て替え支援金(上限300万円)を支給する制度を盛り込むなど、独自の条例を制定している自治体もあり、その動きの発展が期待されている。

 県内で初めて条例が制定される意義は大きいが、より犯罪被害者の支援に資するよう、条例内容の充実が求められることはいうまでもない。県は条例の素案を公表し、23日まで県民の意見を募集している。

 本紙には、他県の条例内容や施策などについて、広く県民に情報を提供していただきたい。

平成29年10月8日 大分合同新聞朝刊掲載